クリスマスは、イエス様の生まれた日なのだそうで。
当初はキリスト教を帝国の絶対支配を脅かす異教とみなし、
その信徒を片っ端から捕らえては投獄し、
時にはコロッセウムに引っ張り出して、
獅子に襲わせるほどの残酷な処刑をなしていたほど迫害していたローマの帝王も、
それでは殉教伝説を生むだけで得策じゃあない、
むしろ彼らを傘下に引き入れた方がと思い直して擁護に回り。
わざわざ国教とまで据えなおしたその折、
帝国の暦の上で1年の始まりでもあった“冬至”の日を、
その神の御子様の生まれた日として祝おうではないかと持ちかけた
…なんて話があるそうで。
「そんなもっともらしい裏話、どこで仕入れた。」
「ん〜? どこだったかなぁ?」
ネットだったような気もするし、深夜放送だったような気もするなァと。
本当に覚えていないらしくて、小首を傾げ倒した坊やだったのへ、
まあいいけどよと、訊いた側の長身なお兄さんが苦笑を見せる。
広々した広間は葉柱さんちのリビングで。
いかにもな本格的西欧仕様のそれらしく、
天井もすこぶる高いし、
畳の数で広さを測るにはちょっと骨が折れそうな広さでもあって。
そして、そんな部屋だからこそ、
鉢植えの大きなモミの樹が違和感なく収まってもいる訳で。
“横には暖炉のマントルピースだもんな。”
此処は間違いなく日本だのになァと、
そんなツリーの傍らに立ち、
キラキラするカラーボールをバランスよく吊り下げていた金髪の坊やが、
脚立も使わずに、頂上のベツレヘムの星を飾り付けてるお兄さんを見上げた。
「クリスマス、か。」
そういえば、葉柱の高校時代の3年分のクリスマスは、
どの年度も一緒に過ごせたけれど。
それってつまりは、
全国大会の決勝戦にあたる“クリスマスボウル”には
縁がなかったってことでもあって。
「まあ、必ずしも12月の25日開催って訳じゃあないんだしな。」
「そんでもさ…。」
不良のくせにどんだけ頑張ったかを知っている。
斃れそうな暑い中、体力をつけるためにとトレーニングに燃え、
それでもなかなか決勝や準決勝には手が届かなくて。
「大学だってクリスマス前後が甲子園ボウルだもんよな。」
「悪うござんしたね、こんな余裕でクリスマスと正月過ごさせて。」
まま、それは仕方がない。
そこへ出たければ、まずは頂上の1部リーグへと勝ち上がるのが先なのだ。
やっとのこと、2部へ上がれた彼らなので、
順当に上がれてもさ来年。
その理屈は判っているが、
「いくら付属だからってだな。」
そんな不合理な義理なんて立てず、
既に1部リーグにいたガッコへ進学すりゃいいのにさ、と。
実をいや、高三のときにもちょろっと口にした妖一くんであり、そして、
「そういうのはなんか違げぇだろ。」
別にズルじゃねぇぞ?
そんでもだ…と、いい顔はしないまま、
結局、賊学の大学部へ進学し、
3部のしかも下位をウロウロしていた、
フリル・ド・リザードを率いている葉柱だったりし。
仲間とつるむのが楽しいからとか、
そんな女子高生のような甘ったるい理由じゃないのは
妖一くんにも判っているが、
“でもなァ、俺に言わせりゃあ、似たような心理じゃね?”
仲良しこよしの楽しさじゃあないものの、
仲間ぢから、すなわち絆ってのを大事にしたがっているには違いなくて。。
“…まあ、それもいいっちゃあいいんだけどもよ。”
親分肌なルイは嫌いじゃないし、
無理して…競争が激しいばっかな、
ともすりゃあ足の引っ張り合いなんてのも茶飯事の、
ぎすぎすしたところに入って、意味なく削られるルイなんて見たくもねぇから、
きっと俺は報復に忙しくなって、
しまいにゃチームが内部崩壊しかねなくって。
……って、
どういう方向への想像の翼を広げておられます、
小悪魔様ってば。(む〜ん)
豪華なツリーを飾り付けている二人の傍らでは、
レンガ作りだろうか、がっしりした暖炉に薪が燃え、
シェルティのキングが、
放射熱のせいでか、うつらうつらとうたた寝しかけており。
こういうのんびりとしたクリスマスイブが嫌いなんじゃあないけれど。
「そうそう、明日は来られねぇなら、
そこの赤い包装紙の箱を持って帰れな。」
「? これ?」
ああ、お袋がお前にって用意したプレゼントだ、と。
モールの巻きつけに取り掛かり始めた葉柱が事もなげに言ったけれど。
結構大きくなった妖一坊やがそれでも両手抱えになる大きな箱であり、
「…よもや、等身大のテディベアじゃなかろうな。」
「安心しな。お袋はお前の本性もうすうす勘づいとる。」
ええ〜〜? それって何のお話ぃ?
似合わねぇぶりっ子はやめな。
明日は聖なる夜だそうだが、
家族で誇り過ごすのが正式の、大切な晩であるらしいが。
でもなァ。
何だよ。
セナ坊なんてのは、進がライスボウルへ進んだから、
正月明けるまでなぁんか落ち着かないってよ。
悪ァるかったな、余裕の年越しさせてよ。
選りにも選ってドえらい人物と比較され、
それはさすがに拗ねかかった葉柱へ、
「まあ、今はしょうがないけどよ。
先では必ず、俺がクリスマスボウルへ連れてってやるぜ?」
えっへんと胸を張る小悪魔様だったのへ、
「・・凄げぇこと言うよなぁ。」
「なんだよ、そこまで呆れなくてもいいだろよ。」
むうと膨れた坊やだったが、
いやなに、まるでプロポーズみたいに聞こえたもんだから。
………っ!!
〜Fine〜 10.12.24.
*よいお年を〜
じゃあなくて。(あはは)
時々、ルイさんのことを
ツッパリはロマンチストだから
始末に負えない…なんて言ってる坊やですが、
しっかり感化されとります。
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